ドラマ「相棒12」/第2話「殺人の定理」
「あらすじ」についてはテレビ朝日のWebサイトで確認出来るので、ここでは書かないことにする。「相棒」は非常に好きなドラマだ。最近はテレビを観ない私だが、「相棒」だけは観ていた。カイト君のシリーズの中で、この「殺人の定理」は1番好きな作品かもしれない。
数年前に「NHKスペシャル~魔性の難問~リーマン予想・天才たちの闘い」という番組を観たことがあり、「殺人の定理」を観ていてそのことを思い出した。内容が繋がるからだ。右京さんが作中で説明していたが、世界中で使用されているセキュリティ暗号には巨大な素数が使われている。「巨大な素数」とは何十桁にも及ぶ素数のことで、素数の個数が巨大という意味で言っているのではない。私の記憶では、前出した番組内でこの「巨大な素数」が何重にもセキュリティロックがかけられた場所で厳重に保管・管理されていた。
素数の現れる間隔が規則的である(間隔に法則がある)ことの証明、つまり「殺人の定理」で言うところの「素数の謎を解く」ことが、いかに恐ろしいことかが素数の管理体制を見れば容易に想像できる。素数の謎が解かれるということは、セキュリティーシステムの崩壊を意味するからだ。
肥後教授の苦悩が、最後に取った行動の意味が、ひしひしと伝わってきた。
映画のモデルになった2人の数学者
「殺人の定理」で名前の出てきた数学者ジョン・ナッシュは、映画「ビューティフル・マインド」(2001)のモデルとなった人。もう1人のアラン・チューリングは、まだ記憶に新しい映画「イミテーション・ゲーム」(2015)のモデルの人だ。
数カ月前、重力波の観測について書かれた記事を読んだ。数学の専門知識が全くない私には、何が書かれているのかさっぱり分からなかった。只、もの凄いことだということだけは分かった。「リーマン予想の証明」と対比するために、記事を読み直し分からないなりに少し調べながら要約してみた。
重力波についての説明は省き、「重力波の観測」に至るまでの経緯に焦点を当てて書いていく。
1)紀元前300年頃
積分法(曲線で囲まれた面積の計算)の誕生。【数・物理・天文学者:アルキメデス】
数学は体系化され、概念が創られていくこととなる。
2)1600年~1700年
星の動きを見て運動の概念を考えた。この概念を捉える道具として微分法を使う。 【物理学者:ニュートン】
積分法(運動を分割して足し合わせる方法)の考え方により天体の運動法則を確立。【天文・数・自然哲学者:ケプラー】
微分法と積分法が実は表裏一体であることを見抜いた2人。「微分積分学」の誕生。
3)?
曲面論(自らの世界が曲がっているかを知る方法?)を微分積分学を用い「微分幾何学」を創り始める。この研究から「非ユークリッド幾何学」を発見。【数学者:ガウス(1777~1855)】
4)?
「多様体」と呼ばれる幾何学の概念が誕生し、この中で「計量」や「曲率テンソル」という曲線の長さや体積のもとになるものが発見される。そして「リーマン幾何学」(n次元多様体の理論)の誕生。【数学者:リーマン(1826~1866)】
5)1905年~1915年
重力を終生のテーマとする。相対性理論の建設には本格的な数学(幾何学)が必要なため、リーマン幾何学を身につける。重力を導く「一般相対性理論」が完成。【理論物理学者:アインシュタイン】
「一般相対性理論」の方程式は「重力方程式」「アインシュタイン方程式」などと呼ばれ、宇宙の大きさを計算し、ブラックホールを予言。これは「重力波の存在を発見」したことを意味する。
JB PRESS 2016.2.26 筆者:桜井進
「重力波の発見は数学のおかげだった アインシュタイン方程式~数学の絶大なる威力」 より
分かります?
この気が遠くなるような時間。紀元前300年って・・・。
紀元前300年から1600年までは空白になっているが、おそらく記録が残っていないのだと思う。戦争や宗教的なことなど理由は色々考えられるが定かではない。そのあたりは以前紹介した、映画「ダ・ヴィンチ・コード」と映画「天使と悪魔」を観ると理解出来るのではないかと思う。
次は「リーマン予想」に辿り着くまでの経緯について書いていく。こちらも記事を要約したものだ。
1)紀元前
素数の概念が登場。素数が無限個あることの証明をする。【数学者:ユークリッド】
2)?
素数には何かパターンがあると考える。円周率πと素数が繋がっていることを発見。【数学者:オイラー(1707~1783)】
3)?
素数の大まかな分布には、一定の法則があるのではないかと考え、数を数え上げていったとき、そこまでの間に素数がいくつあるかという問いに集中する。【数学者:ガウス(1777~1855)】
4)1859年
素数の個数の分布を、精密な数式の形で表現する「素数公式」を発見。「素数公式」の中に「零(ゼロ)点」という概念を創る。「素数の数を数える」ことが「零点を調べる」ことと同じであることが分かる。【数学者:リーマン(1826~1866)】
「リーマン予想」とは、この零点についての予想。すべての零点が一直線上に並べば、素数の個数をかなり精密に言い当てることが出来る。
コンピューターの発達で、すでに何億個もの零点が直線上に並ぶことが確認されている。だが、「無限にある」「全ての」零点がこの直線上にあることを証明する必要がある。それに成功した人は、今だにいない。
朝日新聞 GLOBE 記者:佐藤武嗣・宮地ゆう・田中郁也
「未征服の最高峰『リーマン予想』 裾野を歩く」 より
こちらも紀元前って、気が遠くなる時間が・・・。
「リーマン予想の証明」と「重力波の観測」を対比してみようと思った時は、「リーマン予想の証明」が重力波で言えば「重力波の観測」に当たると考えていた。しかし、こうして実際に書いて比べてみると違うように思えてきた。
リーマン予想の証明は素数の謎に迫るものだ。であるなら、素数の謎を解く(素数の現れる間隔が規則的であることを証明する)ことが、重力波で言う「重力波の観測」に当たるのではないだろうか?と・・・。「リーマン予想の証明」は、まだ「重力波の存在の発見」の段階ではないのかと。
1859年に「素数の数を数える=無限にある全ての零点を調べる」だと分かった、と書いたが「無限」なのに数えられるのか?と言う疑問にぶつかる。「リーマン予想の証明」が不可能にしか、今の私には思えない。こう考えると「素数の謎を解く」ことは、まだまだ遠い先のことのように思える。
最後に・・・。
各記事からの引用を。
「世界について最も理解できないことは、世界が理解できるということだ」
(アインシュタイン)
~中略
数学によって、私たちは手の届かないはるか彼方のことも手にすることができる。アインシュタインは重力方程式を手にしたときそのことを真に悟った。100年前、物理学者アインシュタインは、時空の概念を生み出す数学の威力と、数学によって初めて時空のリアリティを手にできることに驚いた。
JB PRESS 2016.2.26 筆者:桜井進
「重力波の発見は数学のおかげだった アインシュタイン方程式~数学の絶大なる威力」 より
「分割不可能なものに迫る」――。古代ギリシャで素数と原子の探求が始まった。約2500年の時を経て、再び数学と原子論が出会い、リーマン予想の解決が宇宙論にも影響を及ぼすと黒川はみる。
この解明のため「絶対数学」という新たな数学も発展。明治大教授、砂田利一は「リーマン予想に歯が立たないのは、既存の数学とは違う『新概念』を持ち出さないと解けないからではないか。逆に言えば、リーマン予想自体に、宇宙に潜む未知の法則が隠されているかもしれない」と語る。
朝日新聞 GLOBE 記者:佐藤武嗣・宮地ゆう・田中郁也
「未征服の最高峰『リーマン予想』 裾野を歩く」 より
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