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映画「ヒミズ」(2012)

あらすじ

 中学生の住田(染谷将太)の夢は、普通の大人になること。蒸発し突然戻ったアル中の父親光石研)の暴力、家に男を連れ込む母親(渡辺真起子)・・・、両親の愛に恵まれずに育った住田。そんな彼に想いを寄せる、同級生の茶沢(二階堂ふみ)。彼女の夢は、心から愛する人と守り守られ楽しく生きること。何かと住田に付きまとい「ウザイ」と言われる茶沢だが、彼女もまた家庭に問題を抱えていた。そんなある日、父親への怒りを爆発させた住田は、衝動的に父を殺してしまう・・・。

 監督は「冷たい熱帯魚」、「地獄でなぜ悪い」、「希望の国」の園子温

 

予告編 を下記より見ることが出来ます。

 

茶沢がウザイ!

 この作品を観始めてしばらくは住田が言うように、まとわりつく茶沢のことがウザくて仕方がなかった。住田君語録はまだしも、「俳句5・7・5ゲーム」と「呪いの石」は何を言っているのか訳が分からない。「ゴメンナサイ」は5文字じゃないし・・・。このまま最後まで観続けることに、耐えることが出来るのか?と思った程だ。ところが物語が進むにつれ、この「ウザイ」はずの茶沢に心がどんどん引き込まれていく。そして最後には観ている自分が彼女になっていた。

 

普通最高!

 授業中、教師が震災後の日本人について語るシーンがある。「誰だって、この世でたった1つの花なんだ。普通の人間なんていないんだ。」と言う教師に対して、住田が返したセリフが「ボート屋なめんな、普通最高!」。住田の家は貸しボート屋で、高校へ進学するつもりのない彼はボート屋を継ぐことになるだろうと考えている。そして彼の夢は普通の大人になることだ。住田の想い描く「普通」の大人とは?

 この授業の後、茶沢は職員室に行き抗議ともとれる疑問を教師にぶつけている。その内容は花を住田や茶沢自身に重ねているようでもある。

 「普通」については、「シャーロック」を通して・・・。 #1 普通とは?というタイトルでログを書いているので、興味のある方は読んでみて下さい。

 

同じセリフ

 予告編にも少し出ている、住田と茶沢の2人が走る感動的なシーン。茶沢が叫ぶセリフは学校の授業で教師が住田に言ったセリフと同じだ。文字にすれば同じでも、その言葉の使われ方で言葉の持つ力(言霊?)が全く変わってしまう。初めて観たときには、同じセリフであることに気付かなかった。「うわ~、この教師ウザイ、キモイ」という気持ちで一杯で、言葉が全く耳に入らなかったからだと思う。重要なのは、誰が誰に対して言うのか?そして、どんな思いを込めて・・・。

 

カセットテープ

 映画「中国の鳥人」、「青の炎」でも重要なアイテムとして登場したカセットテープ。この「ヒミズ」でもラジカセという形で登場する。誰にも言えない、でも外に吐き出したい・・・。そんな気持ちがカセットテープに向かい、語りかけるという行為に繋がっていく。「中国の鳥人」での使われ方は違うが、「青の炎」では同じ使われ方だ。日記もカセットテープに似ていると思う。「語りかける」か「書く」かの違いだけで、「誰にも言えない、でも外に吐き出したい」という点で、本質は同じだと思うからだ。私には日記を書く習慣はないが、ブログも一種の日記と捉えれば、自分の中にあるものを「外に出す」という点で同じだ。

 

 「ヒミズ」は住田と茶沢が絶望的な状況の中で、どう希望を見いだしていけばいいのか、もがき苦しむ姿が描かれている。そしてボート屋に集まる大人たちの無力感。彼らは、住田が父親を殺す様子を息を潜めて、ただ聞くことしか出来なかった・・・。それを責めることの出来る者などどこにもいない。

 

 この作品は2012年に公開された作品だが、東日本大震災が起きた年の2011年8月31日に開幕された第68回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出されている。被災地で撮影された映像も収められているが、震災発生から約半年後には完成していたことになる。何で見たのかは覚えていないが、監督がインタビューで「これ(被災地)を撮らなくてどうする。」と思ったという内容のことを言っていたと記憶している。脚本も震災発生後に変更されたようだ。そして東日本大震災から数年後に原発事故が起きた架空の町の話しを描いた「希望の国」が2012年に公開。「ヒミズ」は少年少女の物語というだけでなく、震災の記録でもある。 

 

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